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2024.07.31

医師キャリア座談会②|医局との距離感と医師の育児

「キャリアパスの描き方」や「仕事とプライベートの両立」などに悩まれている医師も、多いのではないでしょうか。

今回は、キャリアを考える上で避けては通れない医局との距離感や仕事と育児の両立などについて、卒後17~24年目の医師が語る「キャリア座談会②」の様子をお伝えします。

大学病院や市中病院、クリニックでの勤務経験をもつ医師の、体験談やアドバイスが満載です。今後のキャリアに悩む医師の方々は、働き方のヒントにしてみてください。

【参加医師】

 ・キュート先生@呼吸器内科…医師20年目の 呼吸器内科医。総合病院で呼吸器内科の責任者として勤務している。

 ・Dr.白浜…医師24年目の呼吸器外科医。大学病院の診療科長として勤務している。卒後の6年間は、心臓血管外科や臨床留学で紆余曲折した経験あり。 医師になったときは「海外で仕事をするだろう」と考えていたが、縁あって8年ほど前から大学病院勤務を続けている。

・ピカチュー@産婦人科&不妊治療…医師17年目の産婦人科医。産婦人科専門医取得後に生殖医療を専門とし、現在はクリニックに勤務している。少子化の影響と女医の増加により、医療以外の働き方も考えるようになり「書くこと」と「マネタイズ」について勉強中。

 ・肉球先生…医師20年目の皮膚科開業医。大学病院でキャリアを積み、兼任講師として大学に在籍しつつ雇われ院長を勤め、昨年に自力で開業した経歴をもつ。

それでは、座談会を始めていきたいと思います。

テーマ1『医局との距離感』

――まず、先生方は医局とどのような距離でお仕事をされていますか?

 ・キュート先生@呼吸器内科:

私は大学の呼吸器内科学教室に所属しています。いま勤めている総合病院も、医局からの派遣です。当院は複数の大学からの派遣と、大学とまったく関係ない先生方の半々くらいで成り立っています。

医局主催の講演会・同門会・新年会は適宜参加する感じです。大学と勤めている病院は1時間くらいの距離で比較的近いので、研究日に大学へ出向くことも可能です。

・ピカチュー@産婦人科&不妊治療:

私は初期研修後に、卒業大学とは違う大学に入局しまして、専門医取得と大学院までお世話になりました。学位取得後に1年と少しで退局し、クリニックに就職しています。

医局の同期とは、いまでも仲良くしていますが、大学の組織とはあまり深い関わりが残っていません。ただ、勤務していたクリニックが、同じ大学の医局関連の先生が多かったので、医局の話をよく耳にはしています。

科にもよると思うのですが、いまは入局者が多くて大学からのバイト斡旋は、需要と供給のバランスが崩れていると聞きます。大学院生は「外勤日のバイトは自分で探してね」というスタンスだと聞き、驚きました。

・肉球先生:

私は開業医ですが、医局の同窓会幹事をやっています。以前は、ポリクリや研修医などの指導も担当しており、兼任講師として程よい距離でつながっています。

独身で自由だった頃は、ボランティアで指導を続けていたのですが、さすがに開業すると背負うものが多すぎて、なかなかできていません。ただ、いずれは皮膚科専門医や専攻医たちが、きちんと美容皮膚科を学べる関連施設になる夢があります。

開業したエリアは、母校の診療圏でもあります。医局を離れたOBやOGたちも、母校周辺に残る人が多いので、卒後もゆるくつながっている感じが気に入っているんです。

・Dr.白浜:

ゆるいですが、医局との大切なつながりですよね。医局側も肉球先生だからこそ、つながっておきたい気持ちがあるのでしょうね!

「医局との距離感」まとめ

・近距離:大学の呼吸器内科に所属し、勤務先の総合病院は医局からの派遣。大学主催の講演会や同門会に参加している。

・遠距離:入局した大学で学位を取得後、クリニックに就職。医局の同期とは親しいが、大学組織との深い関わりはない。

・中距離:開業医で、以前はポリクリや研修医指導を引き受けていた。開業したエリアは母校の診療圏で、医局を離れた仲間ともゆるくつながっている。

距離感は様々ですが、退局後も同門会や研修などで、医局とのつながりを続ける医師が多い傾向です。

テーマ2『臨床医と育児の両立』

――育児中の先生もいらっしゃるかと思いますが、臨床医との両立はどのようにされていますか?

 ・キュート先生@呼吸器内科:

私には、子どもが4人います。上の子どもは小5、下の子どもは3歳になったばかりです。職場の同僚は育児中の医師が多いので、急な病気で休んだり、幼稚園の行事で半休をとったりすることには寛容です。

・ピカチュー@産婦人科&不妊治療:

私には、5歳と1歳の子どもがいます。いまのところ「両親の助け」や「病児シッター」を複数契約して、なるべく休まないようにしていますね。

医師複数人での勤務なので、どうしても休まなければいけないときは、お休みできます。でも、あまりウェルカムな雰囲気ではないです。仕事を休んで胃が痛い思いをするなら、お金で解決したほうが気分的に楽です……。

あと、スポットのバイトは、絶対に休めないプレッシャーがあります。労働強度が少なめなところはありがたいですが、育児との相性はあまりよくないですね。

不妊治療の分野ですと、平日の外来は20時位までで、土日の勤務もあります。9~18時のフルタイムとは違い、延長保育を使ってもお迎え時間ギリギリ。学童になったときのことを考え、5月からフレキシブルな勤務ができる病院に転職しました。小1の壁は厚いですね。

 ・肉球先生:

キャリアの話題に、育児は避けてとおれないですよね!私の子どもは5歳ですが、もう毎日限界です。

出産は、前職の雇われ院長だったときなので、育休中は医局の後輩たちの代診でつなぎました。でも、復帰後はまったく休めない環境だったので、夫・親・病児保育をフル活用して、なんとかしのぎました……。

私も、いまから小1の壁は震えています。でも、私が自主開業するきっかけの1つは、後輩開業医のとある一言なのです。

後輩のお子さんが小1になったとき、不登校になってしまった期間があって。そのときに、後輩はお子さんをクリニックに連れてきて、片隅で絵本を読んだり、一緒に過ごしたりしていたそうです。

実は、私も親が開業医で、幼稚園から小学校の頃は、よくクリニックの一室で過ごしていました。

だから、育児と仕事を両立するなら「自主開業もあり」というイメージがありました。なので、たまたま家の近くによいテナントをみつけて開業に至ったんです。

 ・ピカチュー@産婦人科&不妊治療:

非常に参考になります!

周りにいる医師のお子さんでも、不登校や登校しぶりの話は珍しくありません。「もし子どもが不登校になったら、どうしたらよいのかな」と漠然とした不安がありました。

今回の診療報酬改定を見ると、開業も茨の道である点も否めないですが、メリットも大きいのだと改めて思いました。

「臨床医と育児の両立」のまとめ

・病院組織を活用して休む:育児中の医師が多い総合病院で働き、急な休みや半休をとりやすい環境にしている。フレキシブルな勤務が可能な病院に転職した。  

・バックアップ体制を整備して休まない:両親の助けや病児シッターを活用し、仕事を休まないようにしている。クリニックの一室を子ども用にしたりと場所確保の自由度が高いため、自主開業を決意した。

臨床医は病院組織を活用して休んだり、バックアップ体制を整備して休まずに働いたりして、臨床業務と育児と両立しています。

 テーマ3『医学知識のアップデート方法』

――先生方は大学病院やクリニックなど、さまざまな場所で勤務されていますが、医学知識のアップデートはどのようにしていますか。

 ・キュート先生@呼吸器内科:

私は、大学病院から市中病院に異動して約10年経っています。大学病院にいたときは、最先端の話題や知識が、勝手に入ってくる状況でした。

市中病院に移ると、自分から情報をとりにいかなければ、なかなか知識のアップデートをできない点が、不利だと思っていました。

そこで、論文を片っ端から読み漁って「肺癌勉強会」というブログを立ち上げて書き留めました。幅広い分野で講演会を引き受けて、自分の知識が劣化しないように、日々勉強しているつもりです。

アザラシライティング塾のようなオンライン上でのやり取りも、トレンドをキャッチするためにとても役立っています。

・Dr.白浜:

大学病院に勤めていても、必ず知識がアップデートされるとは限りません。たとえば、前任地は医師が10名以上いましたが、いまの職場は私を含めて3人しかいないのです。

私がICU当直もせざるを得ないので、知識のアップデートには気を付けなければいけません。外科系医局で人数の少ない大学病院は、知識のアップデートに関しては留意が必要だと思います。

・肉球先生:

大学病院のカンファレンスに、ZOOMで参加できるようになったのは、コロナ禍を経てのよい変化でした!学会に出す前の叩き台のような場でもあり、生データ感が楽しいですね。

あとは「X」の論文を紹介しているアカウントさんが、ありがたいです。斜め読みレベルですが「ハッとするような症例」もあって、ブックマークして後から調べています。同じ診療科のSNS仲間は、医局でだべっているような感覚があって楽しいですし。

実は、SNSを介して仲良くなった同じ診療科仲間の紹介で、バイトや非常勤先につながることも増えましたね。

私は医局同窓会幹事をやっているためか、皮膚科や形成外科系のクリニックの先生方から「誰か紹介できる人いない?」と聞かれることが多いです。

Xは、考え方や診療の知識レベルがある程度は読めるので、紹介したりつなげたりすることが時々あります。ただし、あくまでお金を介さない「損得なしの友人ベース」という考え方が、ポイントな気がします。 

・ピカチュー@産婦人科&不妊治療:

私の専門である不妊治療は、2022年に保険化されたばかりです。保険化されるまでは、治療法は病院によってさまざまでした。現在、医師は「どの治療が保険で行ってよいのか」という点に注目している状態です。

そのため、最新の治療法に関するアップデートが焦点になっていないのは、特殊かもしれません。

 また、大学病院や総合病院より専門クリニックのほうが治療件数は多く、症例が集まりやすいのも特徴です。

大学病院主導の勉強会は多くないので、日本生殖医学会のほうが、最新の話題に触れられる印象です。製薬会社の勉強会も、症例数の多い先生が講師になるケースが多いため、勉強になります。

肉球先生のおっしゃるようなSNSは「生殖医療を学ぶには効率のよいツールだな」と思っています。

どうしても小規模な集まりになりがちな生殖医療の世界で、さまざまな論文の紹介をしてくださるブログやXの先生方は、かなりありがたいです。

「医学知識のアップデート方法」のまとめ

・ブログを立ち上げ、論文で学んだ内容をまとめる。

・大学病院勤務でも、自ら知識のアップデートをする。

・Xやオンラインコミュニティなどを活用し、最新の論文やトレンドを得る。 

医師は、学会や勉強会などオフラインの場だけではなく、SNSを駆使して知識を磨いています。

まとめ

――最後に「キャリア座談会②」の司会を担当されたキュート先生から、締めのお言葉をお願いいたします。

 ・キュート先生@呼吸器内科:

皆さま、座談会へのご参加ありがとうございました。大学病院・市中病院・クリニックと、違う視点から多くのコメントをいただきました。

診療科の選択や令和時代の医局の在り方など、多岐に渡り意見交換できて大変有意義でした。

これからも立場は違いますが、アザラシライティング塾のコミュニティ仲間ですので、適宜助け合って楽しくお話できれば幸いです。

(文責:入江加奈子)

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