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2024.07.31

医師がオススメする特別な花粉症対策ってありますか?

花粉症は国民病ともいわれています。日本人のスギ花粉症の有病率は約39%にのぼり1)、

花粉症による生産性の低下は1日当たり2,215億円の経済損失を招くとの試算もあります2)。

今回はアザラシライティング塾に在籍する医師3名に集まっていただき、「医師がおすすめする特別な花粉症対策」というテーマで座談会を開きました。

・花粉症の治療薬使い分けについて知りたい

・一般的な薬以外の治療選択を知りたい

そんな花粉症のお悩みをお持ちの方に向けて、現場のリアルな治療の情報や、医師に直接聞きづらいことなどをディスカッションしました。

【参加医師】

・チラ@呼吸器内科…医師10年目の呼吸器内科医。関東の250床規模の総合病院に勤務。呼吸器専門医、総合内科専門医として、主に呼吸器症状を有する患者さんの診療にあたる。花粉症診療も行い、自身も軽度の花粉症持ち。

・シトラス@感染症科…卒後約15年目の感染症専門医。関東の都市部の急性期総合病院に感染症専門医として勤務中。外勤先として勤務しているクリニックで、主に花粉症の診療にあたる。自身はアレルギー体質で、通年性のアレルギーがあり、ビラノアやアレジオンLX点眼を使用。

・玲奈@透析訪問療養…卒後15年目の腎臓内科専門医。勤務先の病院に耳鼻科はないものの、かかりつけの患者が花粉症のため薬の処方を求められることも多い。自身は花粉症とハウスダストなどのアレルギーがあり、通年で鼻詰まり。

・音良林太郎@耳鼻咽喉科…医師17年目の耳鼻咽喉科専門・指導医。総合病院勤務で、耳鼻咽喉科臨床に携わる。花粉症・アレルギー性鼻炎は日常的に診療し、投薬治療、手術加療、舌下免疫療法も導入している。X(旧Twitter)で毎日発信中(ID: Otola_ryntaro)

それでは、これから座談会を始めていきたいと思います。

◆テーマ①:『花粉症治療薬の使い分け』

――花粉症の薬といっても色々な種類があると思います。病院で処方する内服薬について解説をお願いします。

・シトラス@感染症科 :

初めてという方には、ビラノア(第二世代抗ヒスタミン薬)をメインに処方しています。点眼薬の希望者にはコンタクトでも使用可能なアレジオンLX(抗ヒスタミン点眼薬)、点鼻薬の希望者にはアラミスト(ステロイド点鼻薬)を処方することが多いです。

・玲奈@透析訪問療養:

私も1剤だけならビラノアを処方することが多いですが、空腹時内服を忘れられがちなので、他の定時薬がある方にはロラタジン(第二世代抗ヒスタミン薬)を処方することが多いです。

・チラ@呼吸器内科:

私はデスロラタジン(第二世代抗ヒスタミン薬)の処方割合が多いです。選択の理由としては、眠くなりにくく、空腹時や食後いつでも内服が可能で1日1回でOKなため、患者さんにとって負担や飲み忘れも少ないためです。

・チラ@呼吸器内科:

抗ヒスタミン薬で効果が乏しい場合は、キプレス(ロイコトリエン受容体拮抗薬)を加えます。また、患者さんから変更希望などあれば、抗ヒスタミン薬を変更します。

・チラ@呼吸器内科:

眠気の副作用について、抗ヒスタミン薬を処方する際には、日常生活で運転の有無は必ず確認をしないといけないですね。

患者さんにも、この点の申告は必ずお願いしたいところです。

――点鼻薬、点眼薬についてはどうでしょうか?

・チラ@呼吸器内科:

「鼻汁」や「くしゃみ」の症状があれば、ステロイド点鼻薬をはじめから使うことを勧めています。効果もあり、安全に使える薬剤なのが利点です。

妊婦さんの場合にもステロイド点鼻薬は最も安全に使用でき、必須治療と考えています。抗ヒスタミン薬を使わずにコントロールできるかもしれないです。

点眼薬については、目の症状が強ければ抗ヒスタミン点眼薬を処方します。点鼻薬が目のかゆみを軽減する効果を発揮することもあります。

いくつか点眼薬はありますが、使用感に差を感じないのでどれでも良い気がしています。副作用も少なく、すでに抗ヒスタミン薬を飲んでいる方も多いので受け入れやすいです。

ステロイド点眼薬は、副作用が懸念されることから私は処方しておらず、処方希望される場合は眼科に受診依頼をすることが多いです。

・シトラス@感染症科 :

点眼、点鼻ともに症状が強いときに選択しています。

点眼では、コンタクトでも使用できるかと聞かれることが多いので、コンタクトでも使えて効果も高いアレジオンLXを選択しています。

点鼻に関しては、私もアラミストが第1選択薬になりますね。1日1回ですむかどうか、がポイントになるかなと考えています。

・チラ@呼吸器内科:

コンタクトを使用される方は多いですし、お勧めしやすいですね。

・玲奈@透析訪問療養:

点鼻薬では、アラミストは差し心地が優しいですね。ナゾネックス(点鼻ステロイド薬)の方が効く!という患者さんがいるのでその場合はナゾネックスを処方します。

点眼については、アレジオンは一回で長く効くので汎用しますが、むしろ複数回差したいという方にはザジテン(抗ヒスタミン点眼薬)を処方しています。

・音良林太郎@耳鼻咽喉科:

治療薬の選択について、耳鼻咽喉科の医師としての見解をシェアしますね。

まず、抗ヒスタミン薬ですが、基本的にみんな欲しがります。ですので、眠気の少ない薬から処方し、それでも眠気があるなら薬の構造を意識してスライドします。咽頭や皮膚のかゆみが出る人には処方は必須と考えます。

次に、点鼻ステロイド薬ですが、鼻症状に対しての効果は間違いないです。目にも鼻づまりにも効きますし。ただし、なぜか「ステロイド」ということで嫌がる方も多い印象です。

抗ロイコトリエン薬については、咳が出る人によく処方します。鼻づまりに効くと聞きますが、私の印象としてはそこまで効いたと思ったことはないです。

内服ステロイド薬は既往症がない人に対して、どうしても症状がつらいときに使う用として処方します。具体的にはプレドニン5mgかリンデロン0.5mgのどちらかです。

●「花粉症治療薬の使い分け」まとめ

抗ヒスタミン薬は最も処方頻度が高く、眠気の少ない第二世代抗ヒスタミン薬が使いやすいです。鼻汁やくしゃみの症状にはステロイド点鼻薬の効果が高いです。

含有ステロイドも少なく鼻粘膜への局所作用が主で、妊婦さんにも安全に使用できます。「アラミスト点鼻薬」は差し心地が優しいです。点眼薬は、目の症状が強ければ抗ヒスタミン点眼薬を試します。

「アレジオンLX点眼薬」は、コンタクトレンズを使用していても使えます。ステロイド点眼薬を処方する際は、副作用の観点からも眼科の診察を受けましょう。他の治療薬として、ロイコトリエン受容体拮抗薬には気管支拡張作用があり、咳症状に効きます。

ステロイドの内服は、上記治療を行っても症状が強い方には選択肢になりますが、副作用の観点からも長期使用を避け、他の治療手段を考えましょう。(監修:チラ@呼吸器内科)

解説記事:

文中に出てきた治療薬のまとめ表を下記します。本文と見比べながらもう一度読んでみてください。

抗ヒスタミン薬(薬剤名の後のカッコ内は一般名)
第一世代ポララミン(クロルフェニラミン)、セレスタミン(ベタメタゾン) ※セレスタミンはステロイドを含む
第二世代ビラノア(ビラスチン)、クラリチン(ロラタジン)、デザレックス(デスロラタジン)、アレグラ(フェキソフェナジン)、ザイザル(レボセチリジン)、アレロック(オロパタジン)、ルパフィン(ルパタジン)
ロイコトリエン受容体拮抗薬:(薬剤名の後のカッコ内は一般名)
内服薬キプレス(モンテルカスト)
点眼薬アレジオンLX(エピナスチン塩酸塩)フルメトロン(フルオロメトロン)ザジテン点眼液(ケトチフェンフマル酸塩)
点鼻薬アラミスト(フルチカゾンフランカルボン酸エステル)ナゾネックス(モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物液)フルナーゼ点鼻薬(フルチカゾンプロピオン酸エステル)
薬の種類作用機序こういうときに使う
ステロイド点鼻薬抗炎症、免疫抑制くしゃみ、鼻汁
ステロイド内服薬抗炎症、免疫抑制どうしても辛いとき
抗ヒスタミン薬抗アレルギー特に咽頭や皮膚のかゆみに
ロイコトリエン拮抗薬気管支拡張鼻閉、咳

◆テーマ②:『一般的な治療薬以外の治療選択』

――今までの治療を行っても効果のない重症の花粉症に対する次の治療についてです。

手術治療、オマリズマブ3)、また舌下免疫療法(減感作療法)4)の治療効果が高く有効と考えられますが、まずは先生方のおすすめの治療など、ご意見を伺いたいと思います。

・シトラス@感染症科 :

まずは舌下免疫療法になりますが、効果が出るまでに時間がかかるのがデメリットです。

あと舌下免疫療法は、スギとダニしか今のところ日本では適応がなく、スギは花粉のシーズンでない時にしかできない点もデメリットになりますね。

・チラ@呼吸器内科:

おっしゃる通り、舌下免疫療法はスギとダニのみの適応で、特異的アレルギー反応を複数有する方、コントロールの悪い気管支喘息症状がある方には治療できないことは注意点です。

また、スギのシーズンじゃない時に治療をすることも認知が必要ですね。重症花粉症に対するオマリズマブの処方経験はほぼないですが、呼吸器内科の診療では難治性の気管支喘息に対してオマリズマブを導入します。

花粉症をもっている気管支喘息の患者さんも多く、外来では一緒に診ております。毎年花粉症の症状が強く、シーズン中に気管支喘息のコントロールも悪くなる方が、実際に気管支喘息に対しオマリズマブを導入したところ喘息のみならず、花粉症の症状も一緒に緩和された症例も経験することがあります。

気管支喘息がなくても、花粉症の診療ガイドライン上でも使用水準を満たせばオマリズマブは推奨度Aとなっております。デメリットは完全に薬価です。例えシーズン中だけ使うにしても、非常に高い薬であり、あらかじめお話することが必要です。そしてやはり金額面から治療を断られる方も多いです。

・音良林太郎@耳鼻咽喉科:

舌下免疫療法についてですが、花粉症で毎年悩んでいる人で、最重症の気管支喘息もしくは妊娠中でなければ基本的に全員おすすめできる治療法です。

花粉症の症状すべてに対し効果が期待できます。ただし効果が発揮できるまで半年〜1年くらいかかるので気長な治療にはなります。

スギ・ダニへの舌下免疫療法があり、特に小児ではダニの舌下免疫療法によって気管支喘息の発生率を抑制できる可能性について触れられている報告5)もあります。注意として、気管支喘息発作やアトピー性皮膚炎が悪化することがあります。

あと、皮下注射のオマリズマブは非常に効果が高い印象です。ただし、繰り返し打つ必要があるのと、何より値段が高いです。また、IgE値で投与する量を決める必要があったり、症状が最重症であることを確認したり、既存の治療薬が効かないことを確認する必要があったり、実際に使うまでの手間はかかります。

ですが、そのデメリットを差し引いても効果は高いので、通常の薬で症状をコントロールできない患者さんに対しては有効な選択肢といえるのではないでしょうか。

・チラ@呼吸器内科:

ありがとうございます。まずは、適応がある患者さんにはオフシーズンの舌下免疫療法を推奨したいです。そして、今シーズンどうにかしたいという場合にはオマリズマブをすすめることになると思います。

・チラ@呼吸器内科:

皆さま、手術療法についてはいかがお考えでしょうか。

・音良林太郎@耳鼻咽喉科:

手術全体として即時的な効果が期待できることと、物理的に鼻腔内が狭くなった状態は手術以外ではなかなか改善が難しく、最終的に手術になることが多いです。

まずレーザー焼灼術、これは下鼻甲介焼灼ともいいますが、レーザーや薬剤で下鼻甲介の表面を焼灼することで、アレルゲンに対する反応を抑える治療法です。局所麻酔で、日帰りでも行われるので、クリニックでもできるのがメリットですね。

花粉が飛散し始めてしまうとあまり効果が期待できないので、希望があれば11−12月くらいに受けましょう。また、全身麻酔での手術を行うこともあります。

・チラ@呼吸器内科:

ありがとうございます。今までの内容を個人的にまとめますと、まずは手術治療の前に、舌下免疫療法の良い適応の方であればオフシーズンに行いその上でまだシーズン中に症状があれば、オマリズマブの提案をします。

これらの治療が理由により出来ない場合や行ってもまだ症状が残るなどの場合には、手術治療の相談をする流れを考えます。

●「一般的な治療薬以外の治療選択」まとめ

スギ花粉の方に対し、適応があればはオフシーズンの減感作療法を推奨します。副作用について十分に説明し、治療適応を正しく評価する必要があります。

シーズン中の強い症状に対しては、オマリズマブの治療効果が高いですが、薬価が高いです。そして、手術療法は即時的な効果が期待され、物理的に鼻腔内が狭くなった状態は手術でしか改善が難しいこともあります。

レーザー焼灼術や下鼻甲介焼灼術はクリニックでもできます。花粉の悲惨時期でない時期に受けると効果がより期待されるようです。治療については必ず耳鼻科医受診を依頼し、最終的な判断を頂くことが望ましいです。(監修:チラ@呼吸器内科)

解説記事:

●通常の治療で効果が見られない方向けの薬剤

・ゾレア(オマリズマブ)…重症の花粉症に対し、抗IgEモノクローナル抗体であるオマリズマブを皮下注射で投与する。効果は高く2020年より保険適応となったが、薬価が高く人によっては自己負担が月数万円と非常に高額になる。

●舌下免疫療法

アレルゲン免疫療法の一種。治療薬を舌の下に置き、一定時間そのままにした後、飲み込む。少量からはじめ、その後決められた一定量を数年にわたり服用する。

●手術療法

・下鼻甲介粘膜焼灼術…鼻の下鼻甲介粘膜の傷んだ部位を焼灼し、アレルギー反応を抑える手術。

・鼻中隔矯正術…鼻の内部を左右に仕切る壁である鼻中隔の変形を矯正する手術。

・粘膜下下鼻甲介骨切除術…鼻の通りを良くするための手術療法。

花粉症にはたくさんの治療薬があり、また免疫療法、手術、民間療法に至るまでたくさんの治療の選択肢があります。

花粉症でお悩みの方は、自分の症状に合った薬や治療法を知るためにも、できれば花粉症のシーズンが始まる前、遅くても花粉の飛散が始まった早い段階で医療機関を受診してはいかがでしょうか。症状の悪化する前に効果的な治療を受け、辛い花粉症シーズンを乗り切りやすくなるかもしれません。

参考文献:

1)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会(2024/04/30).「花粉症の治療法最前線」.様々な疾患と向き合う耳鼻咽喉科・統計部外科https://www.jibika.or.jp/owned/contents3.html,(2024/5/19).

2) 内閣府大臣官房政府広報室(2024/1/1).「花粉症対策」.あしたの暮らしをわかりやすく 政府広報オンライン.https://www.gov-online.go.jp/article/202403/tv-5125.html,(2024/5/19).

3)Okubo K, et al. (2006). Omalizumab is effective and safe in the treatment of Japanese cedar pollen induced seasonal allergic rhinitis. Allergol Int; 55: 379-86

4)Durham, S.R., et al. (2019). Sublingual immunotherapy with once-daily grass allergen tablets: A randomized controlled trial in seasonal allergic rhinoconjunctivitis. Journal of Allergy and Clinical Immunology

5)Cherry A, et al. (2020). Primary prevention of asthma in high risk children using HDM SLIT; assessment at age 6 years. Journal of Allergy and Clinical Immunology; 145(6): 1711-13

(文責:すしざむらい)

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